2011年の創業以来、Dari Kはインドネシア・スラウェシ島でカカオ豆の栽培指導を行っていますが、JICAプロジェクトの一環で、フィリピン・ミンダナオでの事業展開の可能性を模索していた時期があります。結果として、ミンダナオでの事業展開に至らなかったものの、なぜDari Kがミンダナオでの事業展開を試みたのか、まとめました。なお、本案件は開発コンサルティング企業と協同で実施したJICAプロジェクトです。
※大学生の方から「『BOPビジネス』をテーマにした卒業論文を執筆したい。そのために話を聞きたい」といったお問合せを2021年現在も度々いただいています。今回の記事は、お問合せいただいた大学生の方と、当時プロジェクトを主導していた代表の吉野のインタビューの内容を元に執筆したものです。
◆Dari Kがなぜフィリピンで事業を行おうとしたのか?
ミンダナオは古くから紛争状態が続いており、現地で暮らす人々が安心して仕事ができる環境下にありません。貧困状態に苦しむ人であふれる中、高品質なカカオ豆を継続的に栽培できるようにすることで安定した収入が得られるようにできるのではないか。加えて、ミンダナオはインドネシア・スラウェシ島のすぐ北に位置し、地理的に見ても近いことやカカオ豆の栽培率が各国の約8割を占め、どちらの地もカカオ豆の栽培に適していたことなど、スラウェシ島との共通点も多く見受けられたため、「BOPビジネス」としてミンダナオでの事業展開の可能性を検討することとなりました。
◆そもそも「BOPビジネス」って何?
「BOP」とは、Base of PyramidまたはBottom of Pyramidの略で、購買力平価で年間所得が3000米ドル(約33万円)未満の層が該当します。年間約33万円というと、1日900円ほど。1日900円では、衣食住や子供の教育費を確保するのが困難であることは、想像に難くありません。BOPビジネスは、そんなBOP層を対象とした持続可能なビジネスのことです。
BOPビジネスには大きく分けて2種類あります。1つは、BOP層を消費者と捉え、彼らのニーズに合わせた商品を開発・販売するビジネス。たとえば、日本の食品会社である味の素が、小袋の「味の素」を途上国で販売する事例が挙げられます。小袋の「味の素」の価格は、インドネシアでは0.9グラム入り50ルピア(約0.5円)、ナイジェリアでは9グラム入り5ナイラ(約3円)。まとまったお金がないためにこれまで味の素を購入できなかった現地の人々にとって、少額であれば手が届きやすいためです。
もう1つのBOPビジネスは、BOP層を消費者と捉えるのではなく、BOP層の雇用を創出することで彼らの所得を増やす方法です。Dari Kはこの意味合いでのBOPビジネスを進めてきました。たとえばミンダナオの人々は長年紛争状態に苦しみ、所得水準が著しく低いのが現状です。まず彼らが安心して働けるよう仕事をつくることが、貧困から脱却する第一歩になります。
雇用を創出することでBOP層が貧困から脱却する第一歩につながったとしても、いきなり日本で出回っているような通常サイズの「味の素」が買えるようになるわけではありません。どちらのBOPビジネスが良い、悪い、という話ではなく、企業の役割分担だったり、上手く組み合わせたりすることが重要なのではないかと思われます。
◆ミンダナオのJICAプロジェクト
ミンダナオのJICAプロジェクトでは、「カカオ栽培及び収穫後処理の指導により、高品質なカカオ豆が生産できるようになり、ミンダナオ産カカオが国内外問わず高品質カカオとして流通する」ことをプロジェクト目標に、長期的には現地住民がカカオの栽培により生計向上・雇用創出を実現し、経済の安定に貢献する目的で進められました。Dari Kだけでなく、開発コンサルティング企業やJICAと共にプロジェクトを進めました。
JICAといった公的機関とプロジェクトを共にするメリットとして挙げられるのが、G2G(Government to Government)のネットワークを存分に活かせるということ。一企業が、進出したことのない国でビジネスを始めるのは想像以上に大変です。国の後ろ盾があることで話が早く進んだり、現地の情報を得やすくなったりと、様々なメリットがあります。
◆現地の貧困問題に対して、民間企業が取り組む意義
BOPビジネスにおいて、民間企業ならではの強みを発揮できる部分があります。それは、「マーケットを知っていること」「売れる商品をつくるにはどうしたらいいか、知っていること」です。売れる商品というのは、品質だけでなく、消費者のニーズに合っているか、値段設定は的確か、など様々な観点から考える必要があります。現地の人々の雇用創出を図っても、消費者にとって魅力的な商品でなければ買ってもらえません。商品を買ってもらえなければ、最終的に現地の人々が再び仕事を失うことになる可能性が高まります。ただ現地の雇用を創出すればいいのではなく、消費者目線に立つことも必要となります。
ミンダナオの事業を例に挙げると、農家が一番気にするのは、「高品質なカカオ豆を栽培したところで、本当にそれが売れるのか?マーケットはあるのか?」ということ。その疑問にこたえられ、かつビジネスパートナーとして彼らと共に歩いていく役割を担えるのは、民間企業だけではないでしょうか。そこに、現地の貧困問題に対して、民間企業が取り組む意義があるといえます。
◆紛争の影響から、ミンダナオでの事業展開は一旦見送ることに
結果として、ミンダナオの紛争状態が悪化し、外務省から渡航中止命令が出ていたことからミンダナオでの事業展開は見送らざるを得ませんでした。現在、Dari Kが技術指導を行うインドネシアでは、現地の駐在員が農家を一軒一軒回り、高品質なカカオ豆をつくるべく尽力しています。駐在はおろか渡航もままならないミンダナオで、カカオ豆の栽培の技術指導を行うことは困難です。仮に遠隔での技術指導によって高品質なカカオ豆の栽培に成功したとしても、現地に買い付けに行けなければせっかくできたカカオ豆やそれまでの農家の努力がすべて無駄になってしまいます。
こうした理由からミンダナオでの事業展開は見送ったものの、Dari Kとしてはこれで終わらせるつもりはなく、ミンダナオでも高品質なカカオ豆を栽培できるよう、再挑戦したいと考えています。いつの日かフィリピン・ミンダナオ産のDari Kのチョコレートを皆さんに味わっていただける日がくるかもしれません。
◆ご参考◆
本プロジェクトについて、より詳しく知りたい方は、以下ご参照ください。
JICAプロジェクト報告書「フィリピン国 ミンダナオにおけるカカオ生産性向上ならびに高付加価値化に関する案件化調査業務完了報告書 」
弊社代表・吉野のブログ「ミンダナオ出張記(1)」「ミンダナオ出張記(2)」「ミンダナオ出張記(3)」