三重県津市にあるスペシャルティーコーヒー専門店「colorful coffee(カラフルコーヒー)」。こだわり抜いたコーヒーを味わえる店内で提供されているのは「搾りたてカカオマスのプレミアムテリーヌショコラ」です。
テリーヌショコラの下にレモンピューレを敷き詰めた珍しい一品で、テリーヌショコラと一緒に口に入れるとカカオの持つ酸味と合わさり、口の中で鮮やかな酸味が弾けます。スペシャルティーコーヒー専門店らしく、テリーヌショコラと合うようにコーヒー豆を選んだり淹れ方を変えたりするこだわりも。
コーヒーマイスターの資格を持つ店主・吉川(きっかわ)さんと、テリーヌショコラのレシピを開発された元フレンチシェフの松本さんにお話を伺いました。
※搾りたてカカオマスとは?
Dari Kが開発したグラインダーで挽いたカカオマス(発酵・乾燥させたカカオ豆を細かく砕き、ペースト状にしたもの)のこと。通常数時間かかる工程を約1分に短縮することで、カカオのフレッシュな風味をそのままお楽しみいただけるのが特徴です。
◆元フレンチシェフだからこそ提供できる一品を
レモンピューレが敷かれたテリーヌショコラ。
―普通はテリーヌショコラにソースや付け合わせのフルーツが添えてあるイメージなのですが、なぜレモンピューレと重ねて提供されているのですか?
松本:最初はテリーヌショコラに季節のフルーツを添えて提供していました。テリーヌショコラとフルーツを別々に食べても満足感がありますし、一緒に食べると新たな味わいが生まれます。ただ、実際には半数ほどのお客様がテリーヌショコラとフルーツを別々に召し上がっていました。
搾りたてカカオマスの持つ酸味と柑橘系のフルーツの相性が良いので、せっかくなら一緒に味わっていただきたい。そしてお客様が驚くような組み合わせで、ここでしか味わえない一品を楽しんでもらいたい。そんな気持ちから、今回はテリーヌショコラとレモンピューレを重ねて提供することにしました。元々フレンチのシェフとして10年以上勤めていたこともあり、その経験を少しでも活かし、自分だからこそ作れる一品にしたかったという気持ちも少なからずあったのかもしれません。
季節に合わせて異なるテリーヌショコラを提供している。写真はみかんを添えたテリーヌショコラ。
―レモンと搾りたてカカオマスの相性が良いのですね!
松本:はい。テリーヌショコラというと濃厚でこってりとしたイメージがありますが、搾りたてカカオマスはカカオが本来の風味をそのまま閉じ込めたような、フレッシュな酸味も感じられます。カカオの酸味とレモンは相性が良いですね。レモンは皮ごと使える地物の無農薬にこだわりました。
◆カカオマスがこんなに繊細だと思わなかった
―テリーヌショコラのレシピを開発する上で、こだわったポイントはありますか?
松本:こだわり…というか妥協はしていません(笑)フレンチのシェフとして働いていた時、クーベルチュールを扱うことはあったのですが、カカオマスをメインで使うのは初めてでカカオマスがこんなに繊細だと初めて知りました。作っている最中も加減が絶妙に難しくて。
―どのようなところが繊細だと感じましたか?
松本:たとえば、カカオマスとバターを混ぜて生地を作る時、全部バターで作ってしまうとバターの焼けた匂いがカカオの香りの邪魔をしてしまったり、不安定な状態で卵を加えると分離してしまったり…。慣れないうちは大変でした。
―どうやって現在提供されているテリーヌショコラに仕上げたのでしょうか?
松本:温度や水分量などを調節することで、自分が納得できるテリーヌショコラに仕上がったと思います。先ほどのバターの話でいうと、バターの代わりにどんな油を入れたらいいか一通り試すといったこともしましたね。
吉川:バターの焼けた匂いも「言われてみればそうかも」というくらいで、最初の試作でも十分美味しかったですよ。でも、松本くんが細部までこだわってくれて、現在提供しているテリーヌショコラはびっくりするくらい美味しくなりました。
松本:ありがとうございます(笑)乳化剤や砂糖がすでに配合されているクーベルチュールを使えば、誰でも簡単に美味しいお菓子を作ることができます。カカオマスはカカオ100%でできている分、水分や糖分などの配合を自分で考えなければなりません。そこが大変な部分でもあり、楽しさややりがいを感じられる部分でもあると思います。結果として、カカオマスを使ったことでカカオ感を存分に味わえるテリーヌショコラを作り上げることができました。
吉川:牛乳の配合についてもかなりこだわっていたよね。
松本:そうですね。最初の試作の時、ミルキーになりすぎてカカオの風味が少し消されてしまった印象があって。牛乳の配分を単に減らすだけだと今度はテリーヌショコラの水分量が足りなくなってしまい、なめらかな舌触りになりません。牛乳を減らす代わりに水を少し加えることで、ミルキーさを抑えてカカオの香りをしっかり活かしつつ、なめらかな舌触りを保つことができました。
◆訪れた人の生活に少しでも彩りを添えられるように
―実際にどのようなお客様がいらっしゃることが多いですか?
吉川:30~40代の女性のお客様が多いです。テリーヌショコラも女性のお客様が注文されることが多いですね。うちは24時まで営業しているので、仕事帰りにお一人でふらっといらっしゃる方や、コロナ前は晩御飯後に話し足りない様子でいらっしゃる方も多かったです。
―24時まで営業しているのですか!?
吉川:元々、本業で会社員をやっていて、本業の仕事が終わった21時から24時までの時間だけ副業としてカフェをやっていたので。今は本業を辞めてカフェ一本でやっているのですが、実は夜遅くにいらっしゃるお客様の方が多いんですよ。なので今も夜遅くまで開けています(※コロナ禍のため、状況により営業時間の短縮あり)。
―夜遅くまで営業するのは、大変だと感じることはありますか?
吉川:全然。好きでやっているので。店名の由来にもあるのですが、いらしてくださったお客様の日常を少しでもカラフルにできたら、という風に考えているので、仕事帰りにふらっと気軽に寄って、美味しいコーヒーを飲んでまた明日頑張ろう、と思っていただけるような、そんな場所になれたらいいなと思っています。
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◆編集後記
インタビュー中、テリーヌショコラの開発への想いを熱く語ってくださった松本さん。搾りたてカカオマスの良さを最大限に活かす形でお客様に提供したいというこだわりや熱意にあふれていらっしゃり、お話を伺いながら嬉しい気持ちになると同時に、インドネシア・スラウェシ島のカカオ農家の方々にもぜひ伝えたいと思いました。