これまで「Dari K通信」としてメールマガジンの配信内容をお伝えしてきましたが、今回から「吉野に聞く」と題し、カカオにまつわる疑問をDari K代表・吉野が答える形でお伝えしていきます!(隔週水曜日に発信予定)
記念すべき第1回は、カカオ農家をめぐる貧困について。
「甘いチョコレートの裏に苦い現実がある」というのは、近年知られるようになってきましたが、なぜカカオ産業は儲かりにくいといわれているのでしょうか?カカオの裏に潜む構造上の問題について探ります。
―カカオ農園で、幼い子供が学校にも通えずに働いている話を耳にします。なぜこのようなことが起きているのでしょうか?
吉野:まず、児童労働というのは、「子供の教育や発達を妨げるもの」が児童労働とみなされ、15歳未満の子供が大人のように働くことは原則として認められていません。国際労働機関(ILO)は18歳未満の児童による「最悪の形態の児童労働※」の禁止と撤廃を求めており、187ヶ国が「最悪の形態の児童労働に関する条約」に批准しています。しかし、今もなお、朝から晩までカカオ農園で酷使される子供は世界で約156万人いるといわれています。
※「最悪の形態の児童労働」とは、以下4つに該当するものをいう。
①人身売買、徴兵を含む強制労働、債務労働などの奴隷労働
② 売春、ポルノ製造、わいせつな演技に使用、斡旋、提供
③ 薬物の生産・取引など不正な活動に使用、斡旋、提供
④ 児童の健康、安全、道徳を害するおそれのある労働
吉野:では、なぜ子供が働かなけれならないかといえば、「貧困」が大きな原因です。子供は人身売買によって隣の国から連れてこられるケースや、家族と共に暮らしていても親の収入では生活できないために子供が働かざるを得ないケースもあります。以前、私(吉野)がガーナを訪れた時、現地の人々は児童労働を良くないものと認識していました。それでも児童労働を根絶できないのは、カカオ産業の構造に問題があり、儲からない仕組みになってしまっているからだと思います。
―なぜカカオ産業は儲からないのでしょうか?
吉野:カカオ産業(カカオを生産する側)がなぜ儲からないのかを考える前に、カカオの歴史を振り返ってみましょう。
カカオは約4,000年以上前から栽培されてきたといわれています。現在のような甘いチョコレートとして食べられるようになったのはほんの170年ほど前で、それより前は唐辛子やトウモロコシなどの粉末と混ぜ合わせたスパイシーな飲み物や精力剤として飲まれてきました。カカオは、古くは中南米に自生し、現在のメキシコやグアテマラなどで栽培されてきたのです。
特定の地域の植物だったカカオが世界に広まったのは、16世紀初めにスペインがメキシコを征服し、ヨーロッパに広まったことがきっかけです。当時は植民地時代の真っ只中で、フランスやイギリスなどの宗主国と呼ばれる国々は自らの植民地でカカオの栽培を試みました。現在の主要なカカオ生産国のコートジボワールとカメルーンはフランス、ガーナはイギリス、エクアドルはスペイン、インドネシアはオランダの旧植民地です。宗主国は現地の住民をカカオ栽培に従事させ、それが現在の商業的なカカオ生産の始まりになりました。
吉野:旧植民地の人々が半強制的にカカオを栽培させられ、換金作物として扱われる。こうした歴史的な背景が、カカオ産業の構造に多大な影響を及ぼしているといえます。
通常、商品の価格は需要と供給のバランスによって決まりますが、カカオは先物市場で買取価格が決まる仕組みになっています。
苗木の購入や肥料にどれだけお金をかけたか、栽培から収穫までにどれだけ時間をかけ、丹精込めて栽培したかは関係ありません。農家が原価割れを引き起こす可能性のある先物市場をつくりたいと言うはずはなく、買い手側が価格の変動を抑えて安定的に購入するために先物市場ができたといえます。こうした構造上の問題が、カカオ産業が儲からない大きな要因となっているのだと思います。
―なるほど、歴史的な背景が大きく関わっているのですね。でも、21世紀になっても現状の仕組みは大きく変わっていない気がします。現状の仕組みを変えることは難しいのでしょうか?
吉野:激しい価格競争が当たり前の現代社会において、自分たちだけ市場価格より高い価格で販売するというのがなかなか勇気のいることだからだと思います。たとえば、今までの商品と品質や量がほとんど変わらないのに、価格が数十円でも上がったら「少し手が出しづらいな」と感じてしまう人は少なくないのではないでしょうか。企業にとって、品質を伴わずに価格を上げることは多大なリスクになってしまうんですよね。
そもそも、カカオ産業の構造上の問題が大きすぎて、一企業だけでは太刀打ちできない面も大きいように思います。民間企業の努力も必要ですが、公的な仕組み作りも同じくらい重要であり、たとえば児童労働の疑いのあるカカオ豆に対しては高関税をかける、といった市場を強制的に是正させる仕組みも今後必要になってくるのではないでしょうか。