Dari Kを創業して9年が経ち、今まさに10年目に入りました。この9年間、お客さまから一番多くいただいたコメントや感想って何かと振り返ってみたのですが、ダントツ1位は「Dari Kのチョコってすごくおいしいんです!でも、今まで食べてきたチョコとなんか違うんですよね。でも何が違うかっていうと何っていうのが難しいんだけど・・・」というもの。
何を隠そう、実は私が9年前に初めて自分でカカオ豆からチョコレートを作ったとき、全く同じことを感じたんです!「うわ、ナニコレ!このチョコめっちゃおいしい!でも、なんか他のチョコとは違うおいしさだな」って。
最初はカカオ豆の調達からすべて自分で作ったから、苦労の甲斐もあって一層おいしいと感じるのかな?なんて思っていたのは事実。でも、チョコマニアな方々や、リピーターになって下さった常連さんたちから言われるにつけ、やっぱりDari Kのチョコって何か他のチョコとは決定的に違うところがあるんだろうな、というのは感覚から確信へと変化していったのです。
そして長い間、ダリケーのチョコと他のチョコレート、何が違うのか、自分なりに深く考え、それこそ考え抜いて答えは出たんです!いえ、たった今答えがでたわけではなく、だいぶ前に出ていました。でも、それを公開するのって、なんか秘密のレシピを他人に教えちゃう感がある。それに、自分たちは、こんなにもこだわってんだぜ!って自慢するようで気が引ける感もある。
そんなことを言い訳にして、これまで公には言わなかったのですが、今回公開することにしました。なぜかって?それは、今のコロナ禍でDari Kがペイフォワードの取り組みを広げているわけですが、これを機に初めてDari Kを知って食べて下さった方から、異口同音に同じことを聞かれているからです。
純粋にみんなおいしいと感じてくれて、でもなんか今までのチョコと違うって思って感想をいただいているのに、単に「お気に召していただいてありがとうございます」だと味気ないしつまらないし。だから、今日このブログで紹介いたします!
端的にいうと、Dari Kのチョコのおいしさの秘密は3つあります。
①チョコの主原料であるカカオ豆は、Dari Kにとって調達対象ではなく自社の加工対象である
②決まった作り方はない。その時のカカオ豆によって作り方は大きく変わる
③おいしさは味覚だけではない。生産者含めwin-winな取り組みにより、頭でもおいしさを感じる
うん、自分で書いておきながら、とてつもなく硬い文章だ(笑)。
おいしさの秘密は「まじりっけない」「愛情たっぷり」とか可愛く書ければよかったのですが、めちゃくちゃ硬い表現になってしまいました。
でもこれってリアルな秘密なので、詳しく書きます、ハイ。
①チョコの主原料であるカカオ豆は、Dari Kにとって調達対象ではなく自社の加工対象である
→いわゆるビーン・トゥー・バー(Bean to Bar:カカオ豆からチョコレート作りまで一貫して行う製法)のメーカーを除いて、普通のショコラティエさん、パティシエさんは、製菓用のクーベルチュールを使います。それに対し、ビーン・トゥー・バーのメーカーさんは、カカオ豆からチョコ作りをするので、まずはカカオ豆を調達する必要があります。それは商社から生カカオ豆を取り寄せたり、カカオの生産地に直接赴いて生産者から直接購入して輸入したり。そうして調達するので、あくまでカカオ豆というのは原料の調達対象になるわけです。
一方で、Dari Kはインドネシアのスラウェシ島(インドネシアのカカオ生産量の7~8割を占める一大産地)に現地子会社を設立し、Dari Kから派遣されている現地駐在員の足立さんは、農家の家にホームステイしながら農家と一緒にカカオの栽培から携わっています。
今、契約農家は約500人いるのですが、この契約農家から、Dari Kの現地子会社KICは既に出来上がった(乾燥した状態の)カカオ豆を買うわけではなく、まだパルプと呼ばれる白い果肉のついたフルーツとしてのカカオそのものを買っています。
上の写真がカカオの実を開けた状態ですが、この外側の大きな殻を取り除き、中のフレッシュでトロトロの果肉がたっぷり付いたカカオ豆を、自社の軽トラで集荷に行ったり、農家さんがバイクに積んでKICの集荷場へと持ってきてくれます。
そうして集めた果肉(パルプ)付きのカカオ豆を、KICの発酵施設で発酵します。カカオマニアな方はご存知のとおり、この発酵工程でカカオ豆の味が大きく変わります。つまり、この発酵の出来具合が、チョコレートにした時の味と香りに決定的な影響を与えるということになります。
カカオの説明で、「カカオ豆をバナナの葉っぱで包んでおけば自然と発酵がすすむ」なんて記載がよくあります。それは間違ってはいないですが、この発酵工程、ひとくちに「発酵」といっても、めちゃくちゃ複雑。
まずカカオの発酵といった場合に、2段階あって、酸素が入らない嫌気(けんき)発酵と、酸素が入る好機(こうき)発酵というのがあります。1段階目の嫌気発酵は、白い果肉でぎゅうぎゅうになっているので密閉状態となったカカオ豆には酸素が入らず、カカオの糖分(グルコース)を餌にして酵母が作用します。
もちろん目には見えない超微細な酵母は具体的にはPichia kluyveriやHanseniaspora uvarumなどですが、これはもう超スーパーマニアックな世界かつ学者レベルですね。で、シンプルに言うと、この酵母がグルコースなどのパルプの糖分を分解し、アルコール発酵が生じます。その結果として、エタノールと二酸化炭素を生成し、熱を伴うエネルギーが生じます。
グルコースが分解されてアルコール発酵が進み、グルコース残存量が少なくなると、今度は、Acetobacter pasteurianus(アセトバクター属酢酸菌など)がエタノールから酢酸をつくる酢酸発酵に移ります。酢酸菌は酸素を必要とするので、人為的に木箱の中のカカオ豆を混ぜて、中に酸素を入れる必要が出てきます。酸素が多くなると、嫌気性の酵素は活性しないのでアルコール発酵が終わり、このタイミングで、第1段階の嫌気発酵から第2段階の好機発酵へ徐々に移行するというわけです。
酢酸発酵では酸が生成されるのですが、この酸により、カカオ豆は種として発芽する可能性がなくなります。そして、細胞膜が破壊されるため、壊れた細胞膜を通ってカカオ豆の中に色々な成分が入りやすくなり、結果として香味の面ではフローラル(花的)あるいは柑橘系の爽快な香りの前駆体を醸成したり、あるいは後にチョコレートにした時に特徴的な風味になる成分を豆の中に蓄積するようになるのです。
ちなみに、カカオ豆の発酵の工程では、乳酸発酵も起こりますが、ナイシンやリゾチームにより乳酸菌(lactic acid bacteria)の活動を制御しても、カカオの発酵には影響はない(妨げない)という論文もあるので、興味ある方はご覧ください。
ところで、カカオ豆の発酵の過程では、エネルギーの放出つまり発熱を伴うため、木箱に入れたカカオ豆の温度を測ると、下の写真にあるように、人為的に温めるとかまったくしなくても、勝手に50℃を超えます!(余談ですが、Dari Kのカカオ農園ツアーでは、発酵中の温かい(熱い!?)カカオ豆でいっぱいの発酵槽の中に手を突っ込むことが大人気の恒例行事になっています。発酵のエネルギーを身をもって感じる体験ができますので、チョコ好きな方は生きているうちに是非ご参加ください。)
話を戻して、こうして発酵はカカオ豆の特徴を決める超重要な工程であり、それを農家さんに任せると、人生いろいろ、発酵もいろいろになってしまい、品質が安定しません。そして何より、「発酵」を一作業工程とみるか、原料カカオ豆のクオリティを劇的に操作できるポテンシャルのかたまりと見るかで、発酵の可能性は1にも100にもなります。
なぜなら、発酵中に人為的に酵母を加えることでカカオ豆の香味をコントロールできるし、あえて嫌気発酵をしないとか、あえて好機発酵を半ばで終わらせるとかで、カカオ豆に発現させたい香りの前駆体をいくらでも変化させることができるからです。この可能性を知ってしまったから、Dari Kはカカオの生産地に拠点を置き、そこで日々実験できるようにしたのです。
それゆえ現地子会社であるKICでは、駐在員の足立さんを筆頭に発酵チームを組成していたりもします。そこでは、訓練を受けた現地の若い衆たちが発酵を管理しているのですが、ここで決定的に重要なのは、データを蓄積すること。単にいろいろな実験をするのではなく、毎回実験をする度に発酵のログを取り、そのログを蓄積し、分析することで、どういう条件で発酵すると、それがどんなカカオ豆の特徴を生じさせるか、見えない式を導いていくのです。まさに発酵というアートとサイエンスの世界の融合がそこにあるのです!
そのログとは例えば下のような感じです。この写真の列と列の間には、温度や発酵の時に使った酵母の種類など、企業秘密が山のようにあるので、申し訳ないですがそこは隠しています(笑)。またパルプ(カカオ豆の周りの白い果肉)の糖度が発酵にどう影響するかとか、うーん、僕ら以外に知ってる人ってなかなかいないと思うんですよね。もちろん、理論的にはこうだろという推測は出来ても、本当にそうなるかどうかなんて、神と現地で実験している人のみぞ知る領域!
仮にパルプの多寡ならびに糖度が発酵の過程を通じてカカオ豆に影響を与え、その香味成分の前駆体の生成に有意差を生じさせるとしましょう。その時、今度はパルプの量や糖度は何によって決まるかを知りたくなりますよね?その年の降水量がパルプの量や糖度に関係しているのか?あるいはカカオの樹齢とパルプの糖度は相関関係があるのかないのか?
そうなんです、Dari Kは隠れカカオ・サイエンス集団でもあるんです(自分で言うのは恥ずかしいけど誰も言ってくれないから声を大にして言う!)。そしてサイエンスに必要なのは、再現性の担保です(同じ条件で発酵すると、同じ結果が出ないといけない)。そこでご紹介するのが下のKICの発酵設備及びキャパシティ。
ここで注目して欲しいもの、それは「ステンレス発酵槽」の存在です。何を隠そう、世界のカカオの生産地であまねく使われている木箱には、目には見えない色々な菌(酵母など)が住み着いてしまっています。だから、木箱を使う限り、目に見えない菌が作用している可能性を排除できないんですよね、残念ながら。
したがって、発酵の再現性を確認したいときは、このKICが自分で組み立てて作った(当たり前だけどカカオ豆発酵用のステンレス槽なんて売ってるわけない!)ステンレス発酵層を使って、1回発酵が終わるたびに水で流し、アルコールで殺菌し、またきれいな状態で発酵するのです。それにより、再現性を確認することができ、その現象は「たまたま」起きたのか、あるいは「必然的に」そうなったのかを見極めています。
ここまで発酵を中心に記載しましたが、ポイントは、自社でカカオの栽培から発酵、乾燥に至るまで現地ですべての工程に絡んでいるので、僕らはカカオ豆をバイヤーとして「調達」するというスタンスではなく、「作る」対象として見ています。例えていうならば、料理人が市場に行って、野菜や肉を目利きして買い付けるのではなく、料理人自らが畑をもって野菜を育てるみたいな感じかな。自分の望む糖度になるように、肥料の種類や量を調整したり。あるいは自分で理想の肉の脂肪のサシを実現するために、自分で牛を飼って、その牛に与える飼料を自分で配合したりするような。
いずれにせよ、「原料を作る」イメージですね。で、これをするには、現地に拠点が不可欠だし、不特定多数の農家と付き合うのでは「再現性」を取りずらくなるので、契約農家からカカオを買った方が良いということになります(そのためもあって完全なトレーサビリティを構築)。
Dari Kって案外アピールが下手なので、どうしても「生産者を守るためにカカオを高値で買ってフェアトレードしてるチョコブランド」みたいに思われてしまう節があるけど、それだけではないんです。というか、語弊を恐れずに言うと、生産者がかわいそうだからとりあえずカカオ豆を高く買い取ってあげようなんて気は1ミクロンもありません。
むしろ、継続的にカカオ豆を高く買い取るためには、「現地で」価値を生む必要があって、そのためには発酵のように「現地で」しかできない工程をとことん研究し、可能性を追求することが必須なわけです。現地でこれまでにないような原料を作り込む、つまり付加価値を創出することで、それに見合った対価を払い続けられるようにしようというアプローチをとっている、それこそDari Kの精神なんです。
話が脱線しそうなので、そろそろまとめると、Dari Kチョコのおいしさの秘密①は、「現地で原料カカオ豆の可能性を拓いていること」でした。あー、案の定といえば案の定なのですが、こうして語りだすとやっぱり止まらなくなってしまう・・・。まだDari Kのおいしさの秘密の1つ目なのに・・・。
長くなったので今日はここまでにします。
→Dari Kチョコのおいしさの秘密3つを大公開!②