ここ数日、私の目から見た「フェアトレードの現状」というか
「フェアトレードって概念だけ先行して理解され、実態は
きちんと理解されずに、美化されすぎてない?」というある種の
問題提起をしてきました。
一番はじめのエントリー「はじめまして」でも書いたとおり、
私は学問的なバックグラウンドが「お金では計れない
公平・平等」について考える東南アジア地域研究や
社会政策であり、職業的なキャリアは「お金という尺度で
過去も未来も現在価値になおして効率性の分析」をする
投資銀行やヘッジファンドでのアナリストでしたので、
フェアトレードというものに対しても、その両面から
アプローチしているつもりです。
もちろん、フェアトレードの問題はこれだけではありません。
私が盲点だと思っているのは、フェアトレードが進み、仮に
コーヒーやカカオなどの農家の所得があがるようになると、
これまで米など自給的な意義をもって伝統的に稲作などを
してきた農家が、お金のために商品作物であるコーヒーや
カカオなどの換金作物にシフトしてしまい、結局市場経済の
影響をより受けるようになってしまうリスクがあります。
また、本来ならば近代化・現代化の過程では、農業などの
第一次産業から、機械化・工業化の進展に伴い
第二次・第三次産業へシフトしていきます。
しかしフェアトレードで人為的に所得が上がった第一次産業では、
第二次・第三次産業へのシフトが遅れる可能性があり、
(シフトするインセンティブが減少することによる)、
よって長期的な観点から見ると産業を固定し、その結果
発展のスピードが遅れるという事態も想定できない
わけではありません。
ここまで色々考えてしまうと、何もできなくなってしまいますが
Dari Kのビジョンはすばり「フェアトレード以上、ローカル未満」
なんです。「友達以上、恋人未満」のような感じですね(笑
フェアトレードよりも現場のことをもっと理解し、
最適な仕組みを考え出すけれども、ローカルつまり現地の
方々の考えや文化、慣習をお金のためだけに変えさせるような
ことはしない、というイメージです。
結局、Dari Kは単なるチョコレート屋さんでもなければ、
原材料カカオの生産者でもない。でもこの両者をつなぐ、
経営学的に言えばサプライチェーンの上流と下流を結び、
そのそれぞれのステップで付加価値が最大になるよう
頑張るプロデューサーのような存在を目指しています。
宮崎のマンゴーは、「太陽のタマゴ」と名づけられて
1個3,000円とか5,000円とか、はたまた10,000円とかいう
高額な値がついています。確かに国産(安心)で糖度も高い
(美味しい)のは分かりますが、この金額を正当化させるというか
この金額でも買い手がつくというのは、まさに「宮崎」という
地域ブランド化を成功させたからだと思います。
スラウェシ島のカカオは、世界のカカオのマーケットから見ると
生産量は世界有数でも、質の面では決して良い印象を持たれて
いませんでした。それもそのはず、カカオそのものは素晴らしい
ものなのに、発酵をしていないから当然です。
(この点に関してはDari Kホームページ「発酵について」をご覧下さい)
発酵すれば、チョコレート作りに適したアロマが醸し出され
その可能性は計り知れないのに、カカオの収穫後に早く
換金したいという農家の意向と、カカオに内在する油脂分だけ
搾り取って売ってしまえばいいという輸出業者の意向が一致し
これまでカカオ豆が発酵させられることは殆どありませんでした。
Dari Kの取り組みはフェアトレードとは違います。
カカオ農家の方に、市場価格より20%プレミアム(上乗せ)して
買い取ります、なんてことは言いませんし、やりません。
それをやってしまったら、彼らは甘えてしまうでしょう。
それに私は全ての村の全カカオ農家からカカオ豆を
買い取るなんて資力はないので、一つの村だけで
やってもミクロ的に所得格差を招いてしまうとは
これまでのエントリーで説明したとおりです。
ではDari Kはどうするか?
カカオ農家の方々には発酵の仕方を教えました。
私だって、農学部卒業でもなければ、熱帯作物の知識も
植物学的なカカオの育て方だって知らないド素人でした。
でもそのド素人が、欧米のカカオの木に関して書かれた
学術論文を読み、JICAやアメリカ版JICAのUSAIDの
これまでのプロジェクトの資料を読み、
スラウェシ最大の大学であるハサヌディン大学の
農業学科卒業生とインドネシア語の辞書を片手に
何十時間も話し合い、カカオ産地の村に泊り込みで
「ウルルン滞在」しながら教えたのです。
農家の方もびっくりしてました。
変な日本人がやってきたことにびっくりし、ホテルではなく
ホームステイしていることにびっくりし(まあホテルと呼べる
ところはないんですが)、その上いきなりカカオ豆を
一緒に発酵させましょうと言ったことにびっくりしてました。
でも、彼らも私も一番びっくりしたのは、いざ発酵してみると
これまで乾燥しかさせてなかったカカオ豆の鼻を突く酸っぱい
匂いがなくなり、チョコレートを連想させるほのかに甘い香りに
なった瞬間でした。
ただ単に市場価格に上乗せしてカカオを買い取る
フェアトレードとは違い、農家の方にも頑張って発酵してもらう。
美味しいカカオ豆を作ってくれたら、それなりの
金額で買い取りましょう、こっちの方がよっぽど
フェアだし、生産者にとっても調達するDari Kにとっても
そして消費者にとってもWin-Winな関係だと思います。
Dari Kのプロジェクトはまだまだ始まったばかり。
これからも「フェアトレード以上ローカル未満」を掲げ
精進していきたいと思います。
尚、次回は「Dari Kのチョコレートが他のチョコレートと味が
全然違う理由」について書いてみたいと思います。
あなたの知らないチョコレートの秘密、Dari Kの美味しさの
秘密を公開しちゃいます!