2011年3月11日は東北大震災の日。何かの運命なのか、全く同日にDari Kも法人設立が完了した。法務局から法人登記が完了したと連絡を受けて喜んでいるも束の間、TVをつけるとひどいことになっていた。私の実家は福島県の南隣に位置する栃木県。少なからず影響はあり、私の実家の玄関のドアも壊れた。
法人としてDari K株式会社を設立したこの2011年3月11日の時点では、まだチョコレート屋をやるのか、何をするのかというのが明確に決まっていたわけではなかった。ただ、手元にカカオ豆が大量にあり、それを何とかしなければという思いと、何をするにしても個人では信用がないので会社組織にしなければ始まらないという焦りがあった。
そして5年の月日が流れた。波乱万丈の日々だった。たいがい新聞でもTVでも雑誌でも、メディアというものに出るときには今目に見えている「結果」にフォーカスされる。「サロンデュショコラに出展した」とか「新しい取り組みを始めた」とか。でもそれは氷山の一角であって、水面下ではとんでもなくもがき苦しんだ軌跡があったり、カオスがあったり、そして大変なことだけでなく、感動のストーリーも実は水面下にあったりする。
ただこの5年間を通して私が常に心掛けて、またストイックに守り続けたことがある。それは「初心を忘れない」ということ。
Dari Kという会社が出来たところで、自分が代表取締役に就任したところで、社員は自分一人だった。ボスも部下も全部自分。しかも今でこそチョコレートの製造や販売実績があるが当時は全くのゼロ。ゼロどころかお菓子にさえかかわったことがない。
会社を立てたからといっていきなり信用度が増すわけでもなく、無名は無名に違いない。ダリケーなんて聞きなれない名前に、どこに電話しても「代理店ですか?」と聞き間違われる(「ダリケーとダイリテン、全然違うじゃん!俺そこまで滑舌悪くないだろ!」と心の中で思いつつ)ことも多々あった。
そんな全くゼロからのスタート。チョコの材料の砂糖を買うにも、製菓材料卸というのがあるのも知らなかったし、乳は乳業メーカーに直接頼むことも知らなかった。オリジナルの箱や紙袋はどこの誰に聞けば作れるのかも知らない。菓子屋に働いていた友人もいなければ、ITなどで起業した人は周りにいても、食品の分野での企業、しかも日本で流通していないカカオ豆を輸入して会社をはじめるやつなんてまずいなかったので、もうどうしたらいいのか本当に分からなかった。
それでもインドネシアの農家との約束があったし、自分がやらなきゃ誰もやらない、俺ができなきゃ誰もできないだろうと思ってとにかく頭を下げ続けた。会う人会う人に「話聞いて下さい。よろしくお願いします」そんな毎日だった。
あれから5年。状況は随分変わり、今では経産省やJICAからの案件を任されるようにもなり、各種シンポジウムに呼ばれたり、大学やセミナーでの講師にも呼ばれるようになった。
それでも初心は忘れていない。あの大変さがあったから今も頑張れるし、あの大変さに比べれば、どんなに忙しくても屁でもない。今年2016年は年が明けてから、毎月1~2週間を東京で過ごしている。百貨店をはじめとする商談もあるが、経産省やJICAなど日本の政府機関との情報交換もあり、また工場見学や技術相談などもあるのでその目的は毎日変化に富んでいる。
そんな出張中は、朝から晩まで予定がぎっしりで会食もあるので、自由になるのは夜23:00や24:00だったりする。東京にマンションがあれば別だが、もちろんそんなことはないので宿を確保しなければならない。これが結構大変だったりする。インバウンド旅行者(外国人観光客)が増えているので、ビジネスホテルがいっぱい、もしくはここ2,3年で値段が1.5倍になった。
24:00にチェックインして翌朝8時にはチェックアウトする、その8時間のためだけにホテルに宿泊するのがもったいないと思ってしまう。5年前の自分なら8時間滞在のために1万円払うか。いや、払わない。払えない。だから今でもその基準を適用する。私の判断基準は5年前に起業した時だ。ゼロから自分のわずかな貯金とアナリストを辞めて背水の陣で臨んだ切羽詰まったあのスタートライン。いつもあそこに立ち返る。そして迷わずカプセルホテルへ直行する(笑
まあ考え方は人ぞれぞれで、「少ない時間しか休めないからこそ、ちゃんとホテルでぐっすり寝てエネルギーチャージをして翌朝もフルパワーでいく!」という人もいるだろうし、私と同様に「数時間の睡眠のために1泊分のホテルをとるのはもったいない」と考える人もいると思う。
つい1年前までは、東京出張というと京都からよく夜行バスを利用してたが、今は専ら新幹線移動にしている。それは財政的余裕ができたとかは関係なく、新幹線の移動中というのは3時間弱めっちゃ仕事に集中できるから、こっちの方が時間の有効活用できると考えるようになったからだ。(車内で仕事をしないのであれば夜行バスもいいけれど、さすがに消灯後にパソコンの画面ピカピカにして、キーボードをパチパチ打つことは憚られるので><)
話をカプセルホテルに戻そう。日本が生んだ効率の極みである「カプセルホテル」。ホテルと呼んでいいのか分からないが、みんな自称カプセルホテルなので、ホテルなのだろう。2段ベッドが並ぶドミトリーよりも同じ部屋面積あたり数倍の収容キャパを誇るカプセルは素晴らしい。
10年くらい前に学生時代カプセルホテルを利用したときは、酔っ払いのおっさんのいびきがうるさすぎて、こんなとこ泊まるくらいならファーストフードで夜を明かしたほうがましだ、と思っていた。でもここ数年のカプセルホテル、特に新設されたカプセルは本当にすごい。とても清潔で、休憩室では仕事もできるようになっていることに感激した。
今もカプセルホテルの休憩室で仕事をしているが、朝になるとみんな仕事に出かけるのでほとんど人もいず、仕事がはかどる。カフェで周りの人の会話が耳に入ってくるような状況で仕事をするよりよっぽどはかどる!
さて、そんなカプセルについてまだ経験したことのない人のために説明しよう。まずカプセルを個室とみれば個室ではあるが、その空間たるや・・・・まあ寝台列車の上の段(天井がものすごく低い)のような感じだ。しかしその限られた空間に、息苦しくないような換気設備があり、小さなTVモニターがあり、そこには音が漏れないようヘッドフォンがついている。座ることすら難しいが、読書やTVを見る分には不自由はない。
カプセル同士は隣接しているため、十数センチのプラスチックの壁をはさめば別の企業戦士が寝ているわけだ。さながら僕らはSF映画に出てくるアンドロイドのよう。1日の戦(いくさ)で傷ついた身体を引きずりながらホームに帰還した戦士たちは、まず大浴場で疲弊したを身体を癒しす。そしてキズがある程度癒えると、今度は50を超えるカプセルを有した大部屋に行き、それぞれのカプセルに収納され、パワーをチャージして翌日の戦闘に備えるのだ。
カプセルを体験したことない人には分からないだろうし、泊まったことはあってもその回数が少ないと見えてこないことがある。それは、「日本のサラリーマンはめちゃめちゃ頑張ってる」のだ!!カプセルホテルの稼働率は非常に高い。ビジネスホテルに泊まるのを許されるのは大企業の出張リーマンくらいだろう。日本の多く(6,7割?)の会社員は中小企業に勤めている。中小企業のリーマンに1泊1万以上に跳ね上がってしまったビジネスホテルはハードルが高いのだ!
きっと深夜まで仕事をしていて終電を逃したであろう勤勉戦士。あるいは地方から出張できたけど、贅沢にホテルに泊まることができない中小企業戦士。次の戦場(仕事)を探している身の求職戦士。
いろんな戦士が1つのホームに設けられたカプセルでチャージする。多分この戦士のなかでもカカオ戦士・チョコレート戦士は私だけだと思うが、そういうオンリーワン戦士がきっとたくさんいる。それを見て私はエネルギーをもらう。彼らもきっと私を見てエネルギーを得ている。このカプセルに泊まっている戦士たちは、互いの素性は知らないながらも、皆この日本で戦っている。
私は緩い人が苦手だ。ぶっちゃけ大嫌いだ。自分のことしか考えてない、自分だけがよければいい、そんな人間が増えたから今の世の中になっている。社会はそれとして独立するものではなく、人の集合体なのだから、自分勝手な奴が増えれば生きにくい社会になるに決まっている。
ロハスとか、あくせくしないとか、頑張らない生き方とか、最近いろいろ言われているけど、そんなこと皆がやったらこの世の中終わっちまうよ?最終的にはストレスが少なくて、頑張らなくても幸せに生きる方がいいに決まってる。でも、それを個人が目指してしまったら、出来るやつはいいけど、出来ないやつの方が山ほどいるのは明確でしょう。そういうロハスは個人が達成する目標ではなく、社会の最終的なゴールであるべきで、各個人が頑張らないで自分のゆったりした幸せを追求したら、社会としてのその目標の達成はきっとかなわない。まずは各個人が死ぬ気で頑張って、そこでいろんな理由で出来ない人の分まで余裕を蓄えてから、個人のロハスへ移行しないといかないのではないかと思う。
少なくともこのカプセルホテルに集う企業戦士は頑張っている。相当疲弊しながらも、みんな翌朝また背広を羽織って戦地へ赴く。言葉を交わすことはないけど、みんな周りの戦士をみて自分を鼓舞している。見えないけれど企業戦士の共同体の絆がある。そんな雰囲気が好きで、またカプセルに泊まってしまうのだ。頑張れ、日本のサラリーマン!ダリケーも頑張るで~!