冬ギフトに!濃厚カカオのテリーヌショコラ

dari K to the World
ブログ

理想と現実の狭間で ~Gap between Ideal and Reality~

お蔭さまで4月15日でDari Kショップオープンから5年が過ぎました(会社としての登記は2011年3月11日ですが、お店としてチョコレートDari Kが始まったのは2011年4月15日です)。多くの方からメールや手紙、お花をいただきありがとうございました。また一緒に5年前にDari Kを立ち上げたショコラティエも来てくれて、本当に嬉しかったです。

思い返せばこの5年で紆余曲折沢山ありました。社員との出会いや別れはもちろん、新しいお店を出したり、百貨店に常設店を出したり。もちろん、国内だけでなくインドネシアでもはじめは1軒の農家とスタートした取り組みが、今や数十、数百軒になって、今後数千軒をパートナーにしていくことも決まったり。

このブログでもこれまで好き勝手に私が思ったこと・感じたことを書いてきましたが、特に今回忘備録として書いておきたいのは「本質」を見ることの大切さ。

Dari Kがここまでやってこれたのは、「本質」を見極めることに注力してきたからだと言っても過言ではありません。

例えば「発酵」。カカオの実は収穫後に、果実を取り出して「発酵」させます。これによりチョコレートにした時の香りが良くなるというのはもうDari Kのことを少しでも知ってくださっている方ならご存知の通り。インドネシアではカカオを発酵させていないばっかりに、質が悪いとみなされ、安く買いたたかれてきたのも事実。そこでDari Kは現地の人に発酵を教えて・・・etc。

確かにそうなんです。発酵がカカオ豆の質に多大なる影響を与えるのに、その発酵をしていなかった。だから発酵さえすれば、カカオ豆の質を向上させることができる。質が良くなれば、それは高値で買うことができる。

これにより農家にとっても所得向上のメリットがあるし、Dari Kにとっても良い豆を信頼のおける農家から直接調達できるというメリットがあるし、お客さんにとっても美味しいチョコを食べられるというメリットがある。win-win-winだし、「三方よし」で良いビジネスモデルなんですよ、と。

でも、この表現はいささかミスリーディングでもあります。というのは、「現地農家に発酵を教えさえすればすべてうまく行く」と思われるかもしれないからです。

現地農家に足りないのは➀「発酵するノウハウ(知識)」と➁「発酵に必要な道具」。だからこの2つを提供しさえすれば、どの農家も質の良いカカオ豆を作れる。このロジック自体は正しいです。でもこの2つを提供したからといって、すべてがうまく行くわけではないのです。

下の写真は、4月頭~中旬まで行ったスラウェシのあるカカオ農家で撮った写真です。

↓カカオを発酵するための大きな木箱が県政府から農家グループへ支給されています。
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↓こちらは雨季でなかなか天日干しだとカカオを乾燥させられないので、薪を燃やし送風することで豆を乾燥させる大きなドライヤーです。これも県の農業局がカカオ生産者に無償で与えたもの。
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これらの発酵用木箱やドライヤーが配られたのはもう数年前のこと。実際に運び込まれたときは、農業局の役人やエクステンションワーカー(農家を回って指導する人)、発酵を指導するために雇われた講師、そしてドライヤーの使い方を教える人が来たそうです。

農家に聞くところによると、「どうやって発酵して、どうやって乾燥させるか手順を教え、実際に1度動かした」と。では、それからずっとこれらを使っているのか?と聞こうと思って中を覗き込むと・・・

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ゴミ箱になっていた・・・・

そしてドライヤーは・・・
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数回分の薪がドライヤーの中に入れられたまま・・・

何回使ったのかと聞くと、木箱やドライヤーをもらったときの1度だけだと・・・

また別の農家に行ってみると、ここでもカカオの小さめの発酵箱が配られていた。
しかし、中はクモの巣が張っていて、長い間使っていないことが分かる。

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「この前使ったのはいつか?」と聞くと、箱を裏返してチェスのように塗られたテーブルを指さしながら、たまにゲームをしていると。

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もはやカカオの発酵用木箱は、ゲームの台になっていた。

➀発酵のノウハウ(ソフト面)
➁発酵するために必要な資材(ハード面)
これらを提供すれば、農家はカカオを発酵する。ロジックは間違っていない。この2つのうち、どちらが欠けても発酵はしない(できない)からだ。

しかし、この2つは必要条件ではあっても、十分条件ではない。必要十分条件にするには「発酵をしよう!発酵したい!」というモチベーションが不可欠なのだ。そのモチベーションは何か?その最たるものは発酵することで収入が上がるという金銭的なインセンティブだ。頑張って働いても、それが報われないのならやらない。それが農家の本音だ。

これまで国連系機関や各国の援助機関は、スラウェシの特産品であるカカオを輸出商材としてもっと付加価値を創出して育てようと、いろいろ調査をしてきた。そこでは「発酵」がキーファクターであることも突き止めている。そして発酵を可能にするために、ノウハウと木箱の無償提供というスキームを遂行してきた。

しかし、言い方は悪いが、所詮そこはビジネスではない。量(何人の農家に木箱を配布したか、何人の農家に発酵のやり方をレクチャーしたかという数)をoutputの目標にしてしまったところが問題だった。実際にそのうちどれだけの農家がずっと発酵を続けていくのかが大事で合って、質(実際に発酵をするようになった農家)をoutputにすべきであったし、そうであるからこそ、そのoutcome(上位目標)としてミクロレベルでは各農家所得の向上が、マクロレベルではカカオ産業の付加価値創出による拡大ができたはずだ。

また援助機関や開発NGOには「発酵して質が良くなったカカオ豆を相応の対価で買い取る」という出口の確保がなかったのも問題だった。「発酵すれば豆の質がよくなるのだから、商社やメーカーは今より高くかってくれるだろう」そういう考えだったのだろう。あるいは「そもそも俺らの仕事は発酵を広く普及させることだ。買い取るのは市場・ビジネスセクターの仕事だ」と自ら役割を区切ったのかもしれない。

いずれにしろ、ノウハウも資材も配ったのに農家が発酵することはなかった。それが現実だ。発酵したら必ずバイヤーは高く買い取るとウラ(証拠)を掴んでからやらないといけない。ビジネスでは当たり前の話だ。需要がないのに、モノだけ作って売ろうとするおバカさんはいない(そんかことしたらすぐに倒産しちゃう)。出口(販路)の確保なくしてビジネスは成り立たない。

しかしいったい、なぜ商社は発酵したカカオ豆を買わないのだろうか?買ってもらうためには何が必要なのか?それは商社が悪いのか?あるいはその先にあるメーカーに理由があるのか?私はずっとこれらの問いに向き合ってきた。良いものがあれば買い手がつくのが世の常だ。それなのに買い手がつかないというのは何かボトルネックがあるはずだ。そのボトルネックは何で、それはどう是正できるのか?これが本質であり、「これが変われば世界が変わる」という点で非常にチャレンジングで面白い。

こうやって掘り下げていかないと、本質って見えてこないのだと思う。「なぜ農家はやり方も資材も揃っているのに発酵をしないか」という問い。農家に発酵をさせるための「モチベーション」。農家だけではなく、サプライチェーンを見渡した時にアプローチすべきエージェント。

先にモチベーションの最たるものは「金銭」つまり、発酵すれば高く買い取る(収入が増える)と書いたが、それだけではない。1ha以上の土地を持ち、そこで自家消費用の作物であるとうがらしやイモ、果物などを栽培している農家にとっては、お金はあるに越したことはないが、お金が全てでもない。ましてやイスラム教の彼らは概して金にそこまで執着していない(それより大事なものを持っている)。

私は子供のころサッカー選手になりたかった。ちょうどJリーグが開幕したのが小学校の高学年のころ。毎日サッカーに明け暮れた。でもそれは別にサッカー選手になって年俸数億円を稼ぎたいからじゃなかった。ただ純粋にサッカーというスポーツが好きだったからだ。自分が頑張り、他の仲間も頑張ることでどんどんうまくなっていく、それが楽しかったからだ。

当たり前だけど、お金は全てではない。カカオ農家の気持ちになってみたら、何をすべきか分かる。彼らが発酵をしないのは、「発酵してもしなくても買取金額にほとんど差がないから面倒な発酵をしない」という理由もあるけど、それ以上に「発酵して良い豆を作った時にやりがいが感じない」からだ。そのやりがいとは何か?それは、彼らのカカオ豆の買い取り手の「良いカカオ豆をありがとう」という言葉であったり、そのカカオで作ったチョコを食べた人からの「ありがとう」の感謝なんだと思う。

結局、人は自分のために頑張ることに対して限界があるんだよね、きっと。私がDari Kでヒーヒー言いながらも走り回っていられるのも、お客さんからの笑顔や励まし、カカオ農家の喜ぶ顔があるからであって、別に自分さえ良ければいいのであれば、普通に就職して週休2日でのんびりした生活を選ぶし。

『自分の仕事が他の人を幸せにしている』そう考えるからこそ、もうひと頑張りできるのだと、ふと思った。
You can go the extra mile only when you find what you're doing makes others happy.

6年目のDari Kは、理想と現実を埋める「本質」をこれまで以上に捉えていきたい。