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dari K to the World
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ロールモデル

ロールモデルという言葉を耳にしたことがありますか?

ロールモデルとは、「(自分が)こうなりたい」と憧れるような 人のことを指します。

もともと英語なのですが、英語では「role(役割) model(型)」なので、 行動や規範となるお手本、存在といったところですね。

ちなみにgoogleで「ロールモデル」と入れて検索すると 一番はじめにヒットするサイト「goo辞書(MBA経営辞書)」に 「roll model」と書かれていました。

rollだと「転がる」という意味なので、roll modelは 「転がってしまう型、つまりダメダメな悪いお手本」みたいな感じに なっちゃいますね。

辞書で、しかもMBA経営辞書だったら この間違いはイタイでしょ~(笑 それはさておき、あなたにとって憧れの存在、目指すべき人、 つまりはロールモデルは誰ですか、と聞かれたら あなたは何と答えますか? 実際にロールモデルはいますか?? 私はこれまで、ロールモデルはいませんでした。

結構感激しやすい性格なので、「この人すごい」「こんな人に なれたらなぁ」というような出会いは結構あるのですが 「この人が私のロールモデルです」と言えるほど つまり、「自分の人生において目指すべき存在です」と 自信をもって言えるほど、感化された人はいませんでした。

ロールモデルって、すごければいいってものでも ないじゃないですか。そりゃガンジーとか、小泉元首相とか、 京セラの稲盛さんとか、iPS細胞の山中教授とか、キムタクとかだって めちゃめちゃすごいし、みんなかっこいいし、憧れますけど なれるかなれないかは別にして、なりたいかどうかと考えると 目指すべき分野も、その人たちの生い立ちもあまりにも違うわけで、 ロールモデルと言うにはちょっと違和感があるわけです。

しかし、7月末にインドネシアに行ったときに私は 自分のロールモデルとして今後言えるような人物に 出会いました。

いえ、正確に言うと、もう2年以上の 付き合いになるのですが、今回色々話をする中で、 別世界の存在の人が急に自分のロールモデルになりました。

前置きが長くなりましたが、今日はその人のことを 書こうと思います。 その人(ここでは「Jさん」と呼びます)は、 インドネシアの大企業の社長さんです。 創立から25年で従業員約30,000人を擁する大企業。 上場こそしていませんが、IPO(株式公開)の目的がcash化のための exitならばその必要性はないとして、上場はしていません。

(分かりやすく言うと、要は自分は会社の持ち株を売ってお金が欲しい わけではないので、上場することで自分の持ち株を換金する必要も 株式市場で資金調達をする必要性もないということです)

そんなJさんと初めて会ったのはDari Kを設立する半年以上前。

初めてスラウェシに行く前に、どこの誰にカカオのことを 聞けば良いかも分からず、ネットで検索して見つけたカカオ関連の会社に メールを出しました。

どんな会社かも良く分からず、とりあえずカカオを扱っているから 何か情報が得られればいいな、そんな軽い気持ちでメールを出したのでした。

社長自らが会ってくれることになったのですが、その時はまだ 事の重大さを分かっていませんでした。

約3年前、僕はおそらくTシャツか 何かのラフな格好でJ社長に会いました。

その時の僕はまだ29歳。

ヘッジファンドのアナリストを辞めてまだ 数ヶ月の頃。

あの時は、言うなれば怖いもの知らず。 東京で超大手上場企業の経営陣相手に話をするのは日常茶飯事だったため、 誰にあっても緊張もひるむこともなく、度胸と慣れがありました。

まだ会社(Dari K)も設立していないし、そもそも当時は今後何をするかも 決まっていない状態。

とりあえずカカオを見たくてスラウェシに行ったような 自分は、J社長にスラウェシのカカオ事情について超基本的なことを 聞き始めました。

「あなたの会社はスラウェシのどこのカカオを扱っているのですか」 「毎年どれくらい輸出してるのですか」 「kg単価いくらくらいですか」 「ここ数年のカカオの価格はどうなっていますか」 「他の農作物も扱っていますか」

こんな基礎的なことを、大企業の社長に何のためらいもなく 聞いてしまっていました。

でも社長は一つ一つ丁寧に答えてくれました。

その横で、経営幹部が「お前よくそんな無知でウチに来たな」とでも 言いたそうな顔をしていましたが、それは今思い返して 分かったことです。

J社長は僕にこう言いました。

「日本に今輸出をしていない。インドネシアのおそらくどの企業も 日本へはカカオを輸出していない。吉野さんが本気でやるのなら 全力でサポートする。またスラウェシに来るときは連絡してくれ。 信頼関係を築くのが一番大切だ。そしてビジネスパートナーは 会社の大きさは関係ない。対等なんだ」

その時は何も思っていませんでした。

でもその後、インドネシアに 行く度に私は彼に連絡して会いました。

彼はいつも言いました。

「信頼関係が大事だ。私たちはequal(対等)だ」

僕は彼に無理難題を言いました。

発酵してない豆の混入率が高いのではないか、 豆の大きさ・数(bean count)が小さくなってるのではないか、 コンテナをもっと早く手配できないのか・・・

普通Dari Kのような小さな会社を、大企業は相手にしません。

取引実績も何もない、そんな会社に対し、そして今だから分かりますが コネが一切ないのにインドネシアで大企業の社長に会うなんて 普通は200%無理なはずです。

それなのに、彼はこんな僕を信頼してくれて、 手数料もとらずに輸入の手続きを何度も助けてくれました。

Dari Kは農家からカカオ豆を買いますが、農家の人が 輸出の手続きなどできるはずがなく、僕はこの大企業に 輸出手続きを頼んでいたのです。

それでも僕は妥協せずに色々要望をJ社長に言いました。

J社長はいつもしっかり説明をしてくれ、またベストを尽くしてくれました。

何度目かに訪問したとき、J社長のオフィスにはきれいな食堂が 出来ていました。

そこで食事をいただきました。

そして先月。 最近スラウェシにはほぼ毎月行っているので会う頻度も多くなってきた頃。

J社長は僕に熱く語りかけました。

「25年前、私は幸いにもビジネスをはじめるだけのお金があった。 この25年間、ひたすら自分が信じた道を歩んできた。 失敗もいろいろあった。でもただひとつ、決して曲げなかったことがある。 それは『約束を守る』ということだ。従業員が間違って とんでもなく安い金額で受注してしまったことがある。 普通なら、発注した顧客に「間違えました。申し訳ない。 本当の価格はいくらです」と言うだろう。でも私はその価格でやり通した。 何百万、何千万という損失だった。それでも私は自分の部下が 間違って出した価格を守り通した。 ずる賢い業者は、毎日商品の国際価格が変わることを逆手にとって 発注した日より納品日の方が国際価格が安くなっていたら 納品した商品の中で「これはB級品だ、これは規格外だ」と 文句をつけて安くしようとしてくるところもあった。 でも私は思う。顧客が上で、販売する側が下ではない。 ビジネスでは関係は対等であるべきだ。 だから我々は絶対にB級品を出さない体制を作った。 B級品が混じっていたら、それは顧客の立場を上にしてしまい 自分たちは単に買い叩かれる原料の供給会社になってしまう。 それから我々は価格の変動は自分たちで吸収し、顧客への 価格は毎日相場を見て決めるのではなく、半年はこの価格、 というように決めることにした。 実際は相場は毎日動くので、それで得をすることも損をすることもある。 でも必ず自分が言ったことは守る、そして商品はすべて最高級のものだけを扱い 絶対にB級品やロスを出さない、そのポリシーにより信頼関係を築き、 今まで成長して来たのだ」

僕は聞いていてはじめて、J社長がこれまで「信頼関係」「対等な関係」と 何度も繰り返し言ってきた意味を理解しました。

これからビジネスを立ち上げるという僕に対する、 彼なりのメッセージだったのです。

成功できた要因、それは 信頼関係であり、対等な関係であること。

だから彼は実際にまだ会社もできてないし、大企業の経営者でもない 僕に、時間を割いて自ら会ってくれたのです。

J社長は続けました。

「インドネシア政府は愚かだ。 ジャワ島(首都ジャカルタなどを擁するメインの島)はいいけど、 他の島(インドネシアには小さい島もあわせると18,000くらいの島がある)は 全然発展していない。 私はある時、うちの工場ではたらく従業員が弁当を食べているのを 見た時、愕然とした。彼らは朝8時には働き始める。ということは家を 7時には出るのだろう。昼ごはんは白いご飯に、小さな魚の干物だけだ。 そのご飯と干物を、新聞紙に包んで弁当にして持ってくる。 お昼12時になるころには、ご飯は堅くなっている。そして 新聞紙の黒い文字がご飯にうつった、そんな黒く堅くなった ご飯を食べていた。 マカッサル(スラウェシの州都)には仕事があまりない。 多くの人が職がない、だから貧乏だった。でも政府は何もしない。 日本のように失業者保険も年金も社会保障も何もない。 私は工場を建て、雇用を生んだ。でも労働者はそんなお昼しか 食べていない。 せめて温かいご飯を食べさせたいと思った。その時から、 全従業員に対し、無料で温かい弁当を用意している。 25年間この会社をやってきて、家庭の事情など特別な場合を 除き、辞めた人はほとんどいない。 それが私たちの会社だ。それが私の、私たちのプライドだ。」

僕はそれを聞きながら、胸の奥が熱くなり、泣きそうになるのを 必死にこらえていました。

政府を悪く言う人は多いものです。

確かに、インドネシアのように 賄賂やコネがいまだにまかりとおっている社会において、その体制を 非難するのは仕方ないかもしれません。

ただ非難や不平不満を言うのは誰にでも出来ます。

それを自分の手で、しかしながら、変えていく人はどれだけいるでしょうか。

僕がDari Kをはじめたのは、いくつか理由はありますが 一番大きな理由は「カカオの生産者が最終製品であるチョコを食べたことがなく、 自分で作ったカカオの価格も自分で決められず、時にカカオが病気になったり 天候不順で不作になって貧困に陥る、しかも社会保障が一切ないという なんとも不条理なインドネシアのカカオ産業をどうにかしたい」と思ったからです。

社会保障制度がスラウェシの農家までカバーされていないということで インドネシア政府を非難することはできます。

フェアトレードが大切だと言って、フェアトレードの啓蒙活動家になることも できます。

でもそれで世界が変わるなら、もうとっくに変わっているはず。 変わらない現実があるのなら、自分が変えていかなければならない。

J社長は自分で切り拓いた。 自分で変えていった。 すべてゼロから作り上げた。

言っていることも、やっていることも、自分と似たようなことをしている。

まさに自分の目指すべきお手本、ロールモデルだと思いました。

J社長は最後に言いました。

「私の会社はもっともっと大きくなる。 これまでに築いた信頼関係、私や従業員も持つこの会社へのプライド、 これがある限り、もっともっと大きくなる。」

売上を大きくすべく営業を強化するとか、 マーケティングが云々とか、そういう短期的なところを超越しています。

自分の信念やポリシーを貫き通す。 そして結果がついてくることを確信している。

僕もこうなりたいと思いました。

僕はこれまで外資系の企業や金融の最先端で「結果を出す」ように訓練され、 実行してきました。

そしてDari Kでは従業員にも「結果を出す」よう求めてきました。

それも悪くないかもしれません。

結果が出ないのなら、いくら目標が崇高でも 結局実現できないのですから。

でも、どうせやるなら「結果を出す」ために何かをするのではなく、 自分たちのポリシーや信念をひとつひとつ実践することで 「結果がついてくる」、そんな会社に、そんな組織にしたいと思いました。

道のりは明らかに甘くありません。

でもすぐに乗り越えられる壁なんてつまらない!

Roll model(転がり落ちていく型)にならないように、 Role modelのJ社長を見習いながら、これからのDari Kの展開に乞うご期待!!

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