今回のインドネシア訪問で一番心に残っていること。
それは帰国前日の出来事です。
私は農園に着いた初日から、現地の工場の方に
頼み、色々なことを試みました。
まさに仮説検証をしていたわけです。
その私のリクエストに応えてくれる現地の方Dさん。
彼女は年は私より若干若いものの、既に
結婚してお子さんもいる方。
英語はあまり話せませんが、全く分からないわけでも
ないので、私とは英語とインドネシア語でやり取りします。
今回は、日本からDari Kを応援してくださる
インドネシア人の女性(といっても日本在住約20年なので
日本語もペラペラで、言語だけでなくマネジメントや
ビジネスにも精通している方)が通訳をかってでて
下さったので、直接現地の方と意思の疎通ができない時は
その方に助けてもらいました。
さて、その現地スタッフのDさん。私の細かい要求にも
一生懸命応えてくれます。これは何グラムで、これは
何グラムで、とお願いすると、「なんでそんな細かくするの?」
というような顔をはじめはしましたが、それでも
一つずつの主旨を説明すると、笑顔でうなずき
快くやってくれました。
その実験というか、仮説検証は一日では当然終わらず、
次の日もまた次の日も続いたわけですが、最終日に私は
その完成品を日本にサンプルとして持ち帰る
予定でした。
しかし、最終日の前日、出来上がったものの
味、アロマ、テクスチャー(舌触り)、全てを
チェックしていると、私が想定していたのとだいぶ
異なるものが出来たことが判明。
その理由は、私の仮説が間違っていたとかではなく、
私がお願いした最高品質のカカオ豆の入手が
間に合わなかったため、次善の豆を使ったとのこと。
想定していたものとは異なるとはいえ、Dさんは
終始私のリクエスト通りに処理をしてくれ、私の
農園滞在中は、休日返上で働いてくれた完成物は
決して悪くはない出来でした。
「こんなに頑張ってくれたから、これでよしとしよう」
そう思う半面、心の奥底では「これではやっぱり
最高とは言えない、妥協はしたくない」という
思いも強くありました。
ただDさんを前に、一生懸命作ったものを目にすると、
やっぱり断るのは気が重たいな、それが率直な気持ちでした。
Dさんの努力を買いたい、そう思いました。
すると、通訳をしてくれていた女性が日本語で、
「仕事と感情は切り離してください」、そうきっぱり
私に言いました。
彼女には私の心の葛藤が分かったのでしょう。
とても真剣な眼差しでそう私に言うと、黙って去っていきました。
私の頭は、その一言にガツンと殴られたような感じでした。
仕事と感情を切り離す・・・
そしてしばらく冷静に考えました。いえ、冷静になれる
状況ではなかったけれど、工場の片隅で目を閉じて
落ち着くよう努力しました。
もし私がDさんの努力を知らずに、成果物だけみたら
どう判断しただろう。おそらく自分の思ったものでは
なかったため、それにはNo(ノー)と言ったに違いありません。
でもDさんの努力を知っている。休み返上で、
細かい指示にも快く笑顔で受け止めてくれた。
彼女自身に何も悪いところはない。成果物だって
決して悪くはない。100点じゃないけど、90点ではある。
そして僕はDさんの努力を評価して、本来結果だけで見れば
Noだったものも、今Yesと言おうとしていた。
でもこれは正しいのか。「頑張ってくれた、だからその努力を
買いたい」その感情が判断を変えるという現実。
私の頭の中は正直パニックでした。
どうしたらいいのか、結論をすぐに出さなければなりませんでした。
私は悩みました。悩んで悩んで、その時間は10分か15分だったと
思いますが、それが何時間にも匹敵するくらい真剣に悩みました。
そすして私はDさんを呼びました。
「Dさん、この4日間、色々協力してくれてありがとうございました。
Dさんのお陰で色々なことを学び、多くの仮説検証が出来、
カカオの可能性をさらに確信しました。
Dさんが居なかったら、私はこんなに沢山のことを学べなかったし、
Dさんが休みも返上して工場に出てきてくれたお陰で、より
多くの実験もできました。だから本当に感謝しています。
でも最終的に作ってもらったものを、日本に持って変えることは
できません。それはDさんが悪いのではなく、私が望んでいた
最高品質のカカオを入手できなかった、それが原因です。
今使ってもらったカカオ豆もすごくいいものだとは十分分かります。
ここで私が100%納得していなくて、99%の納得で「これでOK」
と言うことは簡単です。でも日本に持って帰ったときに
後悔するかもしれません。自分が100%納得できないものを
売って、お客さんが満足しなかったら、誰もDari Kの
チョコを買ってくれなくなるかもしれません。
そうしたら、Dさんのところのカカオを輸入することも
出来なくなってしまいます。短期的にみたら、今私が
OKと言う方がお互い楽でHappyになれますが、
長期的に見たら、今は妥協しない方が良いと判断しました。
でもDさんの頑張りには本当に感謝しています。
だからこれからも一緒にがんばっていきましょう。」
そう私は言いました。
私は内心、彼女が怒るのではと心配していました。
ここまで4日間私につきっきりで協力して、
最終的にNoと言われたらどんな気持ちになるでしょう。
がっかりするのはもちろん、細かすぎる日本人に
辟易してしまって怒り出しても仕方ないとさえ覚悟していました。
しかし、Dさんの反応は予想外のものでした。
Dさんは目に溢れんばかりの涙をためて、
「最高のカカオ豆を入手できなくてごめんなさい。
私が頑張ったことを認めてくれて、嬉しくて嬉しくて
涙がでました」
そう言って涙をスカーフで隠しながら走ってトイレへ
駆け込みました。後で聞いた話だと、スタッフは
上司から言われたことを淡々とこなすのが仕事で、
その仕事に対して出来なかったら怒られるが、
努力を褒めてもらったり認めてもらうということは
ほとんどないということでした。
彼女の涙を見て、私ももらい泣きしました。
すると通訳の女性が「よく言えましたね」と
にっこり笑ってくれ、それでもう久しぶりに
泣いてしまいました。
その後Dさんとは私が日本に帰国した後も
連絡を取り合い、近いうちにまた仮説検証に
協力したいと言ってもらえました。
仕事と感情を切り離す、仕事に感情を持ち込まない。
言うのは簡単でも、行うのは容易ではありません。
日本の本社から、海外の子会社に転勤した日本人
上司が、「現地スタッフは使えない・・・」とこぼす
のはよくあります。その言葉の裏には、
自分と現地スタッフの上下関係があります。
私は、Dari Kは、農家の方も工場の現地スタッフの方も
対等だと思ってます。どちらが上でも、どちらが下でもない。
最高のカカオで、最高の美味しさを全世界の人たちに
知ってもらう、そのためのパートナー。
だからこそ、「フェアトレード以上、ローカル未満」
と以前のブログに書いたのです。
フェアトレードという時点で、なんか消費者が上で
生産者が下のような響き。決してそうではなく、
一緒に働くパートナーとして、一層強い絆で
Dari Kとインドネシアはこれから共に歩んでいきたいと
思います。
チョコレート工場での出来事
2011年11月12日