先日プレスリリースを出しました。このブログの一番下にも付けてありますが、10月末にフランスはパリで開催される世界最大のチョコレートの見本市「Salon du Chocolat」にDari Kが出展するというものです。
昨年Dari Kは既に香港、台湾、タイなどアジアの展示会には出展したので、海外の展示会は初めてではなりませんが、それとこのサロン・デュ・ショコラは全く別物。チョコレートに特化したこちらは、チョコレート界の巨匠がブースを並べる言わばプロ中のプロが出展するものであり、チョコレートファンなら耳にしたことがある大きな大きなイベントです。
設立からわずか4年半でSalon du Chocolatに出展となると、それは確かに素晴らしい快挙ではありますが、今の私の個人的な感情を一言で表すなら「安堵感」です。「喜び」や「飛躍」ではなく「安堵」なのはなぜか、少し綴ってみたいと思います。
このブログを読んでいただいている皆様には説明するまでもないですが、Dari Kはカカオ豆の産地であるインドネシアでカカオ農家の指導を通して高品質なカカオ豆を生産し、それにより現地農家への還元という仕組みを元に運営しています。
後者の取り組み(現地農家への還元・貢献)が脚光を浴びると、フェアトレードやCSR(企業の社会責任)を積極的に推進しているチョコレート屋さんと思われがちですが、実際は後者はあくまで手段に過ぎず、目的は前者にあります。
つまり、Dari Kにとっては、美味しいチョコレートを作るのが一番の目的で、そのためには高品質の原料を確保しなければいけません。しかし現状のインドネシアではチョコレートの主原料であるカカオ豆はとてもではないけれど高品質とはほど遠い状況にあります。
したがって、インドネシアではない国から質の良いカカオ豆を輸入するという選択肢もありますが、私たちは短絡的にそのような選択は取りたくありませんでした。世界が「インドネシアのカカオは質が悪く、とてもじゃないけど美味しいチョコは作れない」と思っている中で、この豆を世界最高品質にしてやろうという野望にも近い熱狂的なモチベーションが湧いてきました。
インドネシアでやると決めた以上、カカオ豆の質がどうすれば良くするかを考えて、それを実行する必要があります。収穫後の発酵はその代表的なものですが、それにとどまらず苗木を自ら作ったり、パルプという白い実が多い品種・少ない品種のバランスを取ったりと、とにかく現地の農園で試行錯誤を繰り返しながら、農家と一緒に協働しなければなりませんでした。
しかしベストだと思われるやり方を教えることはできても、農家から低価格でカカオ豆を買い取る今のシステムのままだと農家は継続して協力して良い豆を作ろうとしてくれません。だから教えるだけでなく、高品質なカカオ豆を作ったら、彼らの努力に報いて買取価格を高くくすることで、彼らに経済的なインセンティブを与えつつも、同時に「努力して良いものを作ったら報われるし、喜んでくれる人がいる」というやる気や誇りを持ってもらう体制にしました。これにより良い原料の安定確保が出来ている、というわけです。
このように考えるとフェアトレードや社会貢献が目的ではなく、あくまでそれは美味しいチョコレートを作るための取り組みだということが分かっていただけると思います。あえてこれを理論的に説明すると、本業とは別に社会貢献をするCSRとは異なり、本業をする上での取り組みが会社にも社会にも良い取り組みになるというCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)に分類される取り組みです。
ともあれ、どちらが目的でどちらが手段か、という議論は私にとってはあまり重要でなく、どちらが欠けても成り立たないDari Kという車の両輪なのです。しかし新聞などに取り上げられるときは、農家の所得向上や社会貢献モデルとして紹介されることが多く、チョコの味そのものが大きなスポットを浴びることがあまりないため(逆にグルメ雑誌やグルメTVでは十分スポットを浴びているためいいのですが)、自分としては自慢のチョコの味ももっと多くの方に知っていただきたいと思っていました。
そんな矢先の今回のサロン・デュ・ショコラの出展は、Dari Kのチョコの質を世に発信する機会を得たということなので、最近は社会貢献寄りのメディア露出が多かったため、バランスが取れて非常に安心している、ということなんです。
私がフランスを以前訪れたのはもう15年前のこと。まだユーロではなく、フランが通貨として使われていた頃になります。あれからパリはどう変わっているか、このような形でパリを再訪するとは1mmも思ってもみませんでした!まさに「事実は小説より奇なり」とはこのこと。
せっかく獲得したこのチャンスですが、実は今年の4月から出展は決まっていました。だからこの半年間、新商品も沢山仕込んできました。最高のカカオ豆で作る最高のチョコレート、そしてチョコ以外の驚くべき商品も。カカオの可能性を世界に発信してきます!(と言いつつ、今もスラウェシで新規プロジェクト立ち上げで奔走中!)