新作 │ 発酵にこだわるチョコレートトリュフ

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私がチョコレート・ドリンクにこだわる理由(後編)

前回、私がチョコレート・ドリンクにこだわる理由(前編)では、チョコドリンクを広げたい理由について書きました。

今回の後編では、実際にコンビニやスーパーなどマス流通向けにチョコドリンクを作る際に直面した課題や、それをどう乗り越えたかについて記していこうと思います。

まず初めにぶち当たった問題は、「商品の温度」でした。これまで、ダリケーが店舗で出すチョコレート・ドリンクは基本的にホットでした。要は温めたミルクに自社オリジナルのクーベルチュールチョコレートを溶かすだけのシンプルなレシピなのですが、しかしこのシンプルさゆえに、チョコレートの味がそのままドリンクの風味となるため、ダリケーのカカオの特徴を非常に出しやすかったのです。

しかし、カフェでなくコンビニやスーパーで販売するとなると、当然ながら、お客様が注文してから作るわけにはいきません。あらかじめドリンクを棚に並べておく必要があるのです。となると、これまでダリケーがやってきたことがそもそもできないということになります。

ホットでの提供が不可能であるため、残るは常温かチルド(冷蔵)のいずれかになります。ここで、常温(例えば缶やペットボトル、紙パックなど)を選ぶ場合と、チルド(例えば今回のチルドカップなど)を選ぶ場合で、使える原料やその比率、そして製法そのものが大きく変わってくることが分かりました。

おそらく飲料メーカーにとっては、流通温度別の包材やレシピ、最終商品の風味の特徴など当たり前のように知見があるのだと思いますが、ダリケーにとっては初めてのマス流通向けドリンク製造の挑戦。早くも壁に当たったのです。

そもそもですが、簡単にホット・常温・チルドと言いますが、ホットで作ったチョコレート・ドリンク(いわゆるホットチョコレート)を冷ませば常温のチョコドリンクになり、さらに冷やすとチルドのチョコドリンクになるかというと、そうは問屋が卸しません。

いくらおいしいホットチョコレートでも、冷めると味が大きく変わります。温かい温度帯で飲むと感じる香り、甘み、苦み、コク、そして口の中で感じる味の変化と、それが冷めたときに飲むものは、同じものなのに全く別ものといっても過言ではないでしょう。

淹れたてのコーヒーが冷めたらまずくて飲めない、なんていう経験をしたことがある人は少なくないと思いますが、ホットで美味しく飲むにはそれ用のレシピがあるわけで、またチルドで美味しく飲みたいのであれば、ホットを冷ませばよいというわけではないのです。

ただ、私にとって常温商品にすべきかチルド商品にすべきか、すぐに答えは出ませんでした。出来ることといえば、既に世の中に出回ってる飲料を分析し、どの温度帯でどのパッケージのときはどんな特徴の商品が多いのか特徴をつかむことくらい。

昔、帰納法と演繹(えんえき)法というのを中学か高校で習ったことを思い出しました。複数の出来事とその結果から規則性を見つけるのが帰納法であり、当時は「今後人生において『帰納法』使います!なんてシチュエーション絶対にないだろう」と思っていましたが、とうとう使う時が来たのです。

まず私は、コンビニに行きました。そして手あたり次第、チルドカップ飲料やペットボトル入りの飲み物、缶飲料などを買いまくりました。そして家に帰って、どのカテゴリあるいはどの味を推す場合はどの温度帯のどういうパッケージのパターンが多いか感覚をつかんだのです。

それで出た結論は「チルドカップでいくしかない!」ということでした。チルドカップの飲料は、常温流通の缶やペットボトルの飲料と比較して、生乳割合が多いものが多く、また賞味期限が短く冷蔵による物流コストなどが常温流通よりかかる反面、原料がシンプルなものが多く、かつ流動性が低いもの(とろみがあるようなもの)もチルドカップに多いということが分かりました。

さて、「商品の温度」が決まったわけですが、次の難関は「チルド飲料用のレシピ開発」でした。そもそもホットチョコを作るときはミルクにチョコを溶かすだけでよかったのですが、チルド流通を前提にすると、チルドで美味しい配合を考えなければなりません。そして仮に自分で試行錯誤をしてベストな配合が決まったところで、それはあくまで自分で厨房で作るいわゆる「テーブルサンプル」のレシピであり、工場の製造ラインで作ると同じレシピでも味は大きく異なることは容易に予想されました。

自社でいくら考えても埒(らち)があかない。実際にドリンクを作ってもらうメーカーと一緒に開発しないと進まない。そう考えたものの、「一緒に商品開発をしてくれる飲料メーカー探し」が次の大きな課題となりました。

これまで、焼き菓子やアイスクリームなど、ダリケーの商品の一部は、協力工場(OEM工場)で製造してきました。OEMといっても、最終的にダリケーの商品として世に出るわけですから、原料の提供から使用原料の選定、レシピ提供&監修、味の決定など、ほぼ自社で決めてきたので、製造工程だけ委託してきたわけです。

しかしながら、まったく同じ原料で全く同じレシピを提供しているにもかかわらず、協力工場が変わると最終商品の味が変わります。それは使っている器材が異なることもありますし、人の技術の差による場合もありますが、いずれにせよ自分が出したい味を出せるかどうかは、最適な協力工場を見つけられるかにかかっているのです。

この重要な「飲料メーカー探し」にあたって、私は密かに心の中で決めていた条件がありました。それは、「想いに深く共感していただき、かつ商品開発のレベルが高い」というものでした。

書いてしまえば至極当たり前のことではありますが、実際に世の中には「売れればいい」「安い原材料を使って価格競争で勝負しよう」というところは山ほどあります。特に日本は長年デフレ下にあったので、「安いが正義」「安くないと売れない」という価格プレッシャーがメーカーに重くのしかかり、「良いものを安く」の「良いもの」への追求がことマス流通向けのビジネスだと二の次になってしまうケースも少なくないと感じられます。

そんな中、運命的な出会いを果たしたのが株式会社エルビーさんでした。ゲーブルと呼ばれる1リットルの紙パックに入った飲料、とりわけゲーブルのお茶を主力商品とするエルビーさんは、全国のコンビニやスーパーを主な販路としており、同社の商品を皆さん飲んだことあると思います。

そんなエルビーさんですが、私が運命的と思ったのには理由があります。それは、エルビーさんの創業の背景に関係があるのですが、今から約70年前、人間の腸内で生きて繁殖できる有効な乳酸菌の純粋培養に成功したことがありました。創業者の方は、これを広く健康増進に役立てるには工業化が必要であると乳酸菌飲料製造会社「エルビー」を創業したのです。

そう、ここで鋭い方は既に気づいたかもしれませんが、ダリケーとエルビーには共通するものがあるのです。ダリケーは、インドネシアのカカオが発酵されていないから風味が弱いことに端を発し、発酵することで風味を良くしてその分、生産者への対価を上げることをしてきました。また、今回のドリンクに使用したチョコレートは、収穫したカカオの発酵のプロセスの中で、南国のフルーツを混ぜ込み”フルーツ発酵”させたものを使っていますが、やはりそこでもキーワードは発酵。

一方で、エルビーさんは今でこそ主力商品はお茶飲料ではあるものの、創業当初からの技術的優位性は乳酸菌にあり、乳等を乳酸菌や酵母で発酵させることで発酵乳や乳酸菌飲料を長年製造してきました。実はこのように、両者には「発酵」というキーワードがあったのです!

そう運命を感じた私たちダリケーの商品開発チームとエルビーさんの商品開発チームが一緒になって、今回のドリンク開発にあたりました。しかしそうはいっても、エルビーさんはチョコドリンクの開発をメインでやってきたわけではありません。また私たちダリケーは、原料カカオのことは知り尽くしていますが、マス流通向け商品、それも飲料の開発は初めてでした。

一抹の不安を感じながら臨んだ初めての開発会議。私の不安は一気に吹き飛びました。エルビー開発チームがすごかったんです。まるでダリケーの社員かと思うほど、ダリケーの取り組みを深く理解し、応援してくれている専務や営業部長。お茶インストラクターの資格を保有し、風味の抽出に関わる技術や、熱が風味に及ぼす影響を熟知した開発リーダー。そしてパティシエのコンクールで日本一の経験があるパティシエール。

私たちはすぐに意気投合し、それから試作の日々が始まりました。これまでマス流通していたチョコレート飲料のほとんどは、ココアと植物油脂と香料でチョコの風味を出してはいるものの、残念ながらほとんどチョコレートが入っていません。

私たちが目指したのは香料を使わずに本当のチョコレートのみを使ったチョコレート・ドリンク。

しかし、香料を使用せず、チョコレートだけでいざドリンクにしてみると、レシピは同じはずなのに、いつもダリケーが店舗で作るチョコドリンクとは似ても似つかないものになってしまいました。

どうしてそんなことになってしまうのか?製造プロセスを1つずつ辿っていくと、どうやら殺菌工程の一環で一時的に熱がかかる際に、チョコレートに内在する香りが飛んでしまうことが分かってきました。しかし、その場で提供するホットチョコレートとは異なり、このドリンクはマス流通させる以上、殺菌のために熱をかけないわけにはいきません。そうなると、香料を使わずにチョコレートだけで十分な香りを出すためには、純粋に非常に多くのチョコレートを配合しないとなりません。

そこで、通常のマス流通向けチョコレート・ドリンクで使われるチョコレート含有量の5~10倍のチョコを使うことにしました。するとどうでしょう?チョコの味はしっかり出たものの、今度は流動性が低すぎて(ドロドロになりすぎて)製造ラインを通らないという別の問題が出てきました。

エルビー開発チームは長年の経験から、「この油脂とこの乳化剤をこれだけ入れれば流動性を上げることができます」と教えてくださいますが、どこまで油脂の追加や添加物を許容するかも大きな議題となりました。

主原料の配合を少なくし、添加物で風味を作るのが最もエコノミカルに(つまり安く)おいしく作るコツです。そしてそれを求める人が多いのも事実。しかしそれはダリケーがやらなくてもいいわけで、カカオの栽培から手掛けるダリケーがやることは何か?何度も議論を重ねました。

これは私が尊敬している方が仰られていたことなのですが、「添加物というものは出来立てを味わう場合ならば「全く必要のないもの」ですが、時間が経つと鮮度が失われたり、老化や劣化してしまう商品については、「必要なもの」になるわけです。 自然なものをできるだけと考えている方には添加物は悪者に思えますが、新鮮なものを新鮮なうちに食べることができない地域の方や、本物の味を(添加物が入っていても原材料が素晴らしければ本物の味を楽しめます)多くの地域にお届けするという目的のためには、「必要」になるわけです。」。この言葉を聞いて腑に落ちました。

確かにおにぎりもパンも、コンビニやスーパーで販売しているものは添加物が使われています。しかし、添加物を使わなかったら、数時間ですべて廃棄されてしまいます。そしてその分のコストが商品に転嫁され、おにぎり1個250円、パン1個300円になるかもしれません。それでも消費者はコンビニで買い物するのでしょうか?

私たち開発チームは、企業努力で使用を避けられる添加物は一切排除する方向で合意し、逆にいかに少ない原料でいかに美味しい商品を作れるかに知恵を絞りました。例えば、各原料をどのくらい使用し、それらの原料をどの順番でどのように工程にすれば、安定品質を担保する商品を作れることができるのかなど、エルビーさんのリードで何度も何度も試作を繰り返したのです。

製造の問題に加え、温度による味の変化も別のチャレンジでした。たとえば、甘みは体温に近い 35℃くらいで一番強く感じると言われています。したがって、ホットチョコレートとして飲む時に最適な甘みだったとしても、それをカップに入れて冷ましてチルドで飲むと甘みが弱く感じます。キンキンに冷やして飲む人もいるかもしれないし、温めて飲む人もいるかもしれない。甘さはどこを落としどころにするか?

もちろん、出来るだけ砂糖は入れたくない。そこで、フルーツ発酵のカカオを使うことでそもそもカカオ由来の苦みを抑えることをしたり、あるいはカカオ豆の焙煎を浅煎りにすることで渋味や焦げ感を低減したり、はたまた乳を絶妙な配合で加えることで、乳本来の甘さを引き出すことで砂糖の使用量を抑えることも試みました。

チョコレート、乳、砂糖の量をコンマ数%ずつ調整したサンプルを試飲し、フィードバックしてはまた試作の連続。これもすべては、カカオの健康メリットとチョコレートのおいしさを両立した本当のチョコレート・ドリンクが出来たら、消費者にとっても生産者にとっても、win-winになると確信しているから。

そうして約半年の開発期間を経て完成したドリンクは、エルビーさんの60年以上にわたる社歴の中でも最もチョコレートの含有率の高いものになりました。エルビーさんだけでなく、おそらくマス流通向けチョコレート・ドリンクの歴史の中で最もチョコレート含有率が高いのではと思っています。

最後に・・・

今回、チョコレート・ドリンクの開発を通して、私は自分の想いを改めて感じることができました。マス流通向け商品を開発するからといって、妥協はしたくなかったんです。もしチョコドリンクに香料を使うのであれば、カカオの生産地で頑張って発酵してカカオの風味を良くした意味がない。ダリケーはカカオ農家に、「しっかり発酵して風味をよくすることで、その品質が認められ、その分カカオの価格も高くなる」と説いてきました。そして実際にそれを実践してきました。私たちはチョコレートっぽいドリンクを作りたいのではなく、チョコレート・ドリンクを作らねばならないと感じました。それは理想というより使命に近いものでした。

カカオをコモディティにしたくない。今回のチョコレート・ドリンクには、そんな想いがたっぷり詰まっています。まだ飲んでない方は是非、そして既にお飲みいただいた方は改めて、お楽しみいただけますと幸いです。

チョコドリンク第2弾