新作 │ 発酵にこだわるチョコレートトリュフ

dari K to the World
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「○○産カカオ」から「○○さんカカオ」への挑戦

 Dari Kにとっては8回目のバレンタイン・シーズンがやってきました。初めてのバレンタインの時に「カカオ豆からこだわって手作りしています!」と1人ひとりのお客様に話していた頃は「え?カカオ豆?それってアーモンドと違うの?」と聞かれたり(そうだったらアーモンドチョコっていったい何よ?)、「うちのお父さんも豆買ってきて家でやってる」と言われたり(それって完全にコーヒー豆と勘違いしてるやん!)、カカオ豆の認知度の低さといったらそれはそれは低いこと。実際に現物のカカオ豆や乾燥させたカカオの実を見せると、100人中99人は「へー、初めて見た」となっていました。

 

それから7年の月日が流れ、今「カカオ豆からこだわって手作りしています!」というと、「どこ産のカカオですか?」「Bean to Bar(カカオ豆の焙煎からチョコを作るメーカー)なんですね!」なんてことになり、カカオ豆から手作りでチョコを作っていることに関して驚く人の方が少数派になっている世の中になりました。

 

今や日本だけでも、Bean to Bar製法でカカオ豆から一貫してチョコ作りをするメーカー/ブランドも100社近くあると聞きます。数年前からは、はじめは様子をうかがっていた大手菓子メーカーも「カカオ豆からチョコを作っています」と謳うようになり、それまではカカオの含有率でカカオ○○%と訴求していたチョコレート商品に並び、今では「○○産カカオ」とカカオ豆の産地別に商品を作るメーカーも少なくありません。

 

ほとんどの人にとっては、「最近チョコって産地別で売り出してるのがあるよね」というくらいの、大したことがない変化だと思います。例えばそれまで外出先から電話を掛けるときに公衆電話を探していたのに今は誰もが携帯電話を持つようになったり、以前はFAXでやり取りしていたのがPCのメールに取って代わられたり、そういう日常へ大きな変化を起こすものではないので、あくまで「今のチョコってこういうトレンドなんだ」くらいの認識でしょう。

 

しかし、この変化は原料カカオの生産者には大きな影響を与えています。素材であるカカオが注目されるとなると、生産者にとってはやりがいになる。そう思うでしょうか?

 

現実はそう甘くはありません。確かにカカオの産地によって味が異なるのは事実です。しかし、それはあくまで「チョコメーカーAが使った」ガーナの豆の特徴であって、「チョコメーカーBが使った」ガーナの豆の特徴と一致するかどうかは分からない。

 

話を分かりやすくするために例をあげましょう。たとえば、ある外国人旅行者Aが東京を訪れて、「日本って思ってたよりみんな若いし、英語も話せるし、モダンだ」という感想を持ったとします。別の外国人旅行者Bは、日本の田舎を訪れて「日本って結構年配の方が多く、英語なんて通じないし、かなり昔ながらの生活がまだ残ってる」と感じたとしましょう。

 

外国人旅行者A、Bはそれぞれ自分の国に帰ってこう言うわけです。Aは「日本は結構若い人が多く、英語も話せて、モダンだった」、Bは「日本はかなり高齢化が進んでいて、すごく古い建物が多い」と。日本に行ったことがないAの友人は、実際に日本に行って帰ってきたAの話を聞いて、「日本はそんなところなんだ」と思う。一方で、Bの友人はBのいうことを信じ、そう思う。

 

AもBも嘘ではない。日本はAがいうような側面もあるし、Bの言う通りのところもある。でもAの印象とBの印象は正反対。

 

カカオも同じ。「ガーナのカカオってこんな味の特徴がある」「インドネシアのカカオってこんな特徴」。おいおい、待ってくれよ!それはチョコメーカーAが仕入れたカカオ豆の特徴であって、豆の産地が同じだからといって、チョコメーカーBが仕入れた同じ産地の豆が同じ味の特徴があるとは限らないでしょ!

 

でも、なんだかこんな誤解が広がっている気がしてなりません。そしてこの誤解は、頑張っている生産者にとってはかなりネガティブ。だって、たとえば「インドネシア産カカオ豆って酸味が強く、チョコとしてのがっつりしたビター感が少ない」って多くのチョコ好きは思っているかもしれないけど、農家はパルプ(カカオの果肉部分)の量を抑えたり、発酵をコントロールすることで酸味を抑えたりすることは可能だし、ビター感は高温で強めの焙煎をすることで引き出すことができたりする。

 

つまり本当は生産者によって豆の特徴は違うし、ある程度変えられるのに、「この国のカカオはこう」という先入観を豆のトレーダーや消費者が持ってしまうと、農家のポテンシャルや可能性が摘み取られちゃうんですよね。

 

米で言えば、魚沼産コシヒカリはうまいけど、それに負けず劣らず美味いコメを作る農家は全国にいるわけで、でももし消費者は常にコメと言ったら魚沼産が一番と思ってしまったら、他の地域の頑張るコメ農家にとって、その農家がコメの産地として有名でなければないほど、本当は魚沼産に引けをとらないクオリティであるにもかかわらず、自分のお米の価値を認めてもらうのって大変になる。

 

だから私は思うんです。「○○産」のカカオってそんなに大事か?って。もっと大事なことは○○産ではなく、「○○さん」のカカオなんじゃないかって。それは生産者を報いるためではなく、消費者がよりチョコレートを楽しむために。そしてその結果として、生産者も報いられるようになるはずです。

 

ちなみにダリケーは一昨年から、「初摘みカカオのチョコレート」というトリュフを作っています。お米には新米が、お茶には新茶があるように、チョコレートの原料カカオも果実ゆえに収穫期があります。同じインドネシアの、同じスラウェシ島の、同じポレワリ県のカカオでも、その年の降水量や気温によってカカオ豆の特徴は変わるし、ましてや肥料を化学肥料からオーガニック堆肥に変えれば味も変わる。農薬を使わずにカカオの実に果実袋を付けても味は変わる。

 

本来、産地が同じというだけで、全く同じ味のチョコレートなんて作れるはずないんです。だから食べていただきたい。Dari Kの初摘みカカオを。なんならカカオを育てた全農家の名前も住所も顔も分かる初摘みカカオのチョコレート。

 

ダリケー現地駐在スタッフが精魂込めて作った今の「カカオ」の味を堪能していただきたい。昨年と同じものなんてないし、すべて手作りである以上、昨日買ったトリュフと今日買うトリュフは味が違って当たり前。同じスーパーで同じ産地のいちごを昨日と今日1パックずつ買っても、味は若干違うように。○○さんカカオのチョコレート、一緒に楽しもうではありませんか!

 

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